CDがアナログレコードの音質を超えた日

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最近再会した古い友人が「CDって昔のレコードのように自然界の音がちゃんと記録できないんでしょう?」
「なのにどうしてこのCDは臨場感が肌にまで伝わってくるの?」と言っていたので驚きました。

この「CDは昔のレコードのように自然界の音がちゃんと記録できない」という噂は最近あちこちで耳にします。
そのほとんどの人達は電子工学の知識に縁がない人ばかりで自分の耳で聞き比べた事など皆無の人達の間で広まっている、事実とかけ離れた偏見からの概念のようです。

誰がそのようなデマを何の目的で垂れ流したのか?

まずアナログレコードとCDの記録及び再生の技術の違いを再確認してみましょう。

塩化ビニール(72回転の時代はエボナイト)などの円盤に溝として記録されたレコードは、レコード針がその溝をなぞって起きる機械的な振動を電磁誘導の原理を用いて電気信号に変換するため高音域は音圧レベルが低く、記録波形の振幅も小さくなり、ホコリの影響や電気的ノイズに記録音声が埋もれてしまいやすくなります。

一方、低音域の音圧レベルは高く、波形の振幅が過大であると隣接する音溝にも影響したり針が溝から飛び出してしまったりと盤面の溝の送りピッチを大きくする必要が生じて、収録時間が短くなるというデメリットを解消するためレコードでは原盤のカッティング時に、低音域を減衰させ高音域を強調して記録し、再生時に記録時と逆の周波数特性で補正するためのフィルター(イコライザー)が装備された回路が昔のプリアンプやプリメインアンプの入力端子にPhono 入力として装備されていました。

これらはレコード全盛期の1960~1970年代にはRIAAカーブとして統一基準が設けられていました。
しかしRIAA カーブは下記の図のような曲線です。隣はそれを構成するための回路です。


実際にはこのような平面曲線だけではなくコンデンサを使った回路による位相のずれも生じています。

そしてそれは周波数帯域によって異なります。

これらの理由からレコードメーカーや再生機器メーカーの組み合わせにより音質に大きな違いが生じていました。これらの問題点を革命的に改善する新しい記録媒体としてCDが登場しました。

現在市販されているCDのサンプリング周波数44.1kHzの場合の記録再生可能な周波数帯域は2~22,000Hzですから標準的レコードで記録再生可能な周波数帯域が40~18,000Hzを大きく上回っていますが、最初の頃のCDの音質は酷い物でした。お気に入りのバンドの新譜はCDとレコードの両方を購入して聞き比べた事も度々ありました。

しかし、それから30年近くたった今デジタルレコーディングの世界の技術の進歩は著しく進み1970年代の名盤と評価されていた沢山のレコードもデジタルリマスターされ高音質CDとして登場しています。だからといってアナログ機器はもうお役ご免の絶滅危惧製品なのかと言うと全くその逆でプロのレコーディング現場においては真空管を用いたマイクロフォンやレコーディング機材が現在でも沢山登場しヴィンテージ機材と共に活躍しています。

歴史的な伝統に基づいたアナログ機材と最新のデジタル技術とのコンビネーションが現在の高音質CDの登場を可能としているのです。

さて、このデジタルサンプリングの知識をお持ちの方は「22,000Hz高域の再生は確かに可能だが正弦波が三角波となる波形の変化が生じるだろう」と反論するかもしれません。しかしこの正弦波が三角波となる波形の変化はレコード時代の真空管プリアンプの名機マランツ#7に搭載されているイコライザーの高域を上げた場合も正弦波が三角波どころかノコギリ波に変化しますし逆に低音を上げるとノコギリ波が正弦波に近い丸みを帯びた波形に変化します。

下記の図は6Hz、5kHz、20kHzの正弦波を市販CDの標準フォーマットaiffファイルとして16 ビット44.1kHzサンプリングでデジタル変換したときの波形図です。振幅は一定にしてありますが波形を見やすくするために波長の長さは拡大してあります。

6Hz

6Hz

5kHz

5kHz

20kHz

20kHz


次に示すのは3kHzの正弦波入力で一般的なトーンコントロール回路で高音域の音色を強調した場合の波形の変化をブラウン管式オシロスコープで表したものです。オシロの表示レンジは右側を10db下げて波形を比較しやすくしてあります。


これらの技術的データが示す事実は何故か多くの人達が信じている「CDって昔のレコードのように自然界の音がちゃんと記録できないんでしょう?」という概念が真実でないことを証明しています。

確かに製作予算を削った安易な商業主義主体の粗悪な音源も沢山登場している事も事実です、しかし膨大な予算と時間をかけ、才能あるアーティスト達の知識と経験が生み出した貴重なCDが秘めたすばらしい音源の数々を、電子工学や音響工学の知識に乏しい一部の人達がばらまいたデタラメな概念の犠牲となり偽物と本物の区別がつかないまま感動のチャンスを失っていることは無知が生んだ悲劇です。

音源製作をしているプロの現場のエンジニア達はアナログ機材の長所と欠点及びデジタル機材の長所と欠点を熟知した上でレコーディング時における楽器や歌手の音質と機材の組み合わせを巧みにそして精密にバランスをとっています。

例えばアナログからデジタルに変換される時に起きる音質の変化を想定し失う部分を多めに強調して録音しておく等は長年多くの機材と接してきた職人技のみが可能となる特技です。ですからレコーディングスタジオやミックススタジオだけではなくマスタリングスタジオ及び担当エンジニアも必ずCDに表記されています。

彼らは優れた音の魔法使いとして互いにしのぎを削りあい進化し続けています。